コラム

部下育成をあきらめる前に|「あきらめる」と「手放す」は違う、という話

「また今日も、伝えたはずのことが、できていない」
「もう、あの部下の育成は、あきらめてもいいのだろうか」

部下育成に悩み、そう検索して、この記事にたどり着いたあなたへ。最初に、どうしてもお伝えしたいことがあるのです。

部下育成をあきらめたくなるのは、あなたが冷たいからではありません。

むしろ逆です。あの部下は、悪いひとではない。むしろ真面目。でも、育たない。そんな相手に、何度も向き合い、期待して、そのたびに疲れてきた。真剣にやってきたひとにしか、この悩みは訪れないのです。悩めるあなたは、すでに十分、部下と向き合ってきた上司ですね。

申し遅れました。ボクはこれまで企業の組織づくりを支援しながら、noteにリーダーシップについて600本以上書いてきました。結論を先に。あきらめなくて、いい。ただ、期待は手放していい。この記事は、その理由と方法の話です。

この記事でわかること

  • 部下育成をあきらめたくなる「本当の理由」
  • 「あきらめる」と「手放す」の違い。手放していいのは、部下ではなく「期待」のほう
  • 明日から実践できる、3つの「関わり直し方」
  • 部下への声かけ例(×/◯)
  • それでも苦しいときの、現実的な選択肢

 

部下育成をあきらめたくなるのは、向き合ってきた証拠

まず、この気持ちの正体から。

「もう、あきらめようか」と思う夜が、リーダーにはあります。

でも、考えてみてほしいのです。この気持ちは、手を抜いてきたひとには訪れません。指示だけ出して、あとは放置。育っても育たなくても、どうでもいい。そういう上司は、そもそも「あきらめる」という言葉にたどり着かないのです。だって、始めてすらいないのですから。

あなたは違います。何度も伝えた。やり方も変えてみた。期待して、任せてみた。そのたびに、思ったようにはいかなくて、少しずつ疲れてきた。あきらめたくなるのは、あなたが逃げずに向き合ってきた証拠なのです。

そして、もうひとつ。この悩みは、あなただけのものではありません。

Q&Aサイトを見ると、「部下の育成をあきらめてもいいですか」「何度言っても改善されない部下に疲れました」という相談が、それはもうたくさん出てきます。役職も業界もばらばらのひとたちが、同じ夜に、同じ言葉で検索している。

つまり、あなたが特別に器の小さい上司だから悩んでいるのではなく、真面目に部下と向き合うひとなら、誰でも通る道だということです。

だからまず、「あきらめたくなっている自分はダメだ」と二重に自分を責めるのは、いったんやめにしましょう。その気持ちを持ったままでいいので、この先を読んでみてください。

 

部下育成をあきらめたくなる本当の理由|あなたのせいだけじゃない

では、なぜあきらめたくなるのか。その正体を、少し分解してみます。

疲れの正体は「期待と現実のギャップ」

しんどさの中身は、じつは部下の能力そのものではないことが多いのです。

「これくらいは、できるようになってほしい」という期待と、目の前の現実とのギャップ。これが埋まらないまま積み重なると、ひとは疲れます。期待が大きく、真剣であるほど、ギャップは痛い。あきらめたくなるほど疲れているのは、それだけ期待して向き合ってきたから、なのですね。

 

そもそも「育てられる環境」だったでしょうか

もうひとつ、あなた個人ではどうにもならない「構造」の話があります。

そもそも、あなたの職場に「育てる時間」はあったでしょうか。自分の数字も背負うプレイングマネジャーとして、業務は過多になる一方。育成にかけた時間は、評価制度の上ではほとんど評価されない。「育成は現場に任せた」と言われるだけで、会社としての仕組みはない。教わったことがないのに、「育てろ」とだけ言われる。

これで部下が育たなかったとして、それをあなた一人の責任として抱える必要はないと思うのです。

畑にたとえるなら、種をまいて、水をやるのは、たしかにあなたの仕事です。でも、土壌や天気まで、農家一人のせいではありません。日照りが続いて収穫が減ったことを、農家の腕のせいにするひとはいませんものね。

 

「自分のせいだけじゃない」とわかると、次が見える

誤解のないように言うと、これは「だから何もしなくていい」という話ではないのです。

原因の半分は、あなたには変えられない環境にある。だから、自分を責めすぎなくていい。でも、残りの半分、つまり「関わり方」は、あなたに変えられる。あきらめたくなるほど疲れた今だからこそ、精神論でも根性論でもない、関わり方の話をしたいのです。

で、その前に。この記事でいちばんお伝えしたいことを、先にお話しさせてください。「あきらめる」と「手放す」は、違う。という話です。

 

「あきらめる」と「手放す」は違う|信じるけど、期待しない

「見込みのある部下だけ育てればいい」への違和感

検索すると、「全員を育てるのは無理。素直で伸びしろのある部下を選んで育てよう」という意見も見つかります。ま、実務としては一理あるのかもしれません。限られた時間をどこに使うか、という話ですから。

でも、正直に言うと、ボクはこの考え方に少しだけ違和感があるのです。「選別する」と決めた瞬間に、選別された側は、それを敏感に察します。見限られた部下は、もっと育たなくなる。そして選別したあなた自身も、「ひとを見限った」という後味の悪さを、ずっと抱えることになる。

あきらめるな、という精神論はつらい。選別せよ、という割り切り論は後味が悪い。だからこの記事では、第三の道をおすすめしたいのです。

 

手放すのは、部下ではなく「期待」のほう

「あきらめる」と「手放す」は違います。

手放していいのは、部下そのものではありません。「自分の思い通りに育ってほしい」という期待のほうです。

ボクが人生の教訓にしている言葉があります。

信じるが、期待しない。信頼するが、期待しない。希望を運ぶが、期待しない。

相手は自分ではない、別の人間です。思考も、行動も、決断も、コントロールなんてできるわけがない。「期待」とは、いわば、相手の変化を自分の幸せの拠り所にしてしまうこと。だから、期待が裏切られるたびに、あなたが傷つくのです。

でも、「信じる」は違います。そのひとの中にある、成長する力までは疑わない。アドバイスは真剣にする。でも、変わるかどうか、いつ変わるかは、相手に委ねる。結果に自分の感情を賭けない。それが「信じるけど、期待しない」という構えです。

 

期待を手放すと、部下がちゃんと「見える」ようになる

不思議なもので、期待を手放すと、イライラが減ります。イライラの正体は、部下の行動そのものではなく、「期待とのズレ」だからです。

そして、イライラというフィルターが外れると、観察と発見が戻ってきます。「あれ、先月より報告が少し早くなったな」「この仕事だけは、ミスがないな」。期待に届かない部分ばかり見ていた目が、小さな変化を拾えるようになるのです。

あきらめる、とは、見ることをやめること。手放す、とは、期待というフィルターを外して、もう一度ちゃんと見ること。まったく別のことだと、ボクは思うのです。

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部下育成をあきらめる前に試したい、3つの関わり直し方|声かけ例つき

「信じるけど、期待しない」。この構えを、明日からの行動に落とすと、次の3つになります。どれも、特別な時間もスキルも要りません。

① 期待の棚卸しをする

まず、紙でもメモアプリでもいいので、その部下への「期待」を書き出してみてください。「一度言ったことは、次からできてほしい」「このくらいは、言われなくても気づいてほしい」「もっと当事者意識を持ってほしい」。

書き出したら、一つずつ眺めて、こう問います。「これは、誰の基準だろう?」

たいていは、「若手だったころの自分」か「理想の部下像」が基準になっています。つまり、相手の現在地から出発していない期待なのです。歩幅の違うひとに、自分の歩幅で歩けと言い続ければ、お互い疲れますものね。

×「なんでこれくらいできないの?」
◯「今、どこまでは自分でいけそう? どこから難しい?」

期待を捨てるのではなく、相手の現在地から測り直す。それが棚卸しです。

 

② 「指導」ではなく「観察」から入り直す

あきらめたくなっているとき、ボクたちの会話は「指摘と指導」だけになりがちです。顔を見れば、直してほしいところを言う。部下は、あなたの顔を見るたびに緊張する。そして関係は、少しずつ悪化していく。

部下の「個性」を大切に、「寛容」に、「関心」を示し、「共感」し、「傾聴」する。言葉にすると当たり前です。でも、あきらめたくなっているとき、ボクたちはこの順番を忘れて、「指導」から入ってしまうのです。

だから、いったん指導をお休みして、「関心」に戻る。仕事の話でなくてもいいのです。その部下が好きなこと、最近気になっていることに、少しだけ付き合ってみる。興味のなかった話でも、聞いているうちに、案外おもしろくなってくるものです。そしてひとは、自分の話をちゃんと聞いてくれた相手の話しか、聞かないものなのですね。

×「その話はいいから、例の件どうなった?」
◯「へえ、それ、もう少し聞かせて」

 

③ 任せる単位を、半分にする

「任せても、結局できない。だから、もう任せられない」。この悪循環も、あきらめの大きな原因ですね。

ここで部下を責めても、何も進みません。責める代わりに、任せる単位を半分にしてみてください。「この企画、任せた」ではなく、「まず、たたき台の骨子だけ作ってみて。明日10分だけ一緒に見よう」。

小さく任せて、小さく完了してもらう。小さな「できた」を積む。遠回りに見えて、これが「指示待ち」から抜け出すいちばんの近道だと思うのです。指示どおりに動く部下をつくるのが育成ではなく、自分で考えて動けるひとに育ってもらうのが育成、ですものね。

×「前に任せたらダメだったから、もう自分でやるよ」
◯「ここまでの小さい範囲は、あなたの判断でやってみて。困ったら、いつでも巻き込んで」

 

それでも苦しいときは、ひとりで抱えない

ここまで読んで、それでも「もう限界かもしれない」と感じているなら、最後にこれだけお伝えさせてください。

ひとりで抱え込まないでください。

配置転換や役割の変更など、現実的な選択肢を検討することは、逃げではありません。その部下に合う仕事や環境が、今の場所とは別にあるのかもしれない。それを考えるのは、見切りでも切り捨てでもなく、マネジメントの正当な仕事の一部です。

そして、あなた自身が倒れないことが、チームにとって一番大切です。上司であるあなたが疲れ切ってしまえば、その部下だけでなく、チーム全体が沈んでしまいますから。

部下育成の考え方を土台から整え直したい方は、こちらの記事もあわせて読んでみてください。
部下育成がうまくいかないのは、あなたのせいだけじゃないあわせて読みたい 部下育成がうまくいかない理由と3ステップ

外の力を借りるのも、ひとつの手です。ボクたちも、組織づくりと部下育成のご相談を受けています(初回60分は無料です)。

 

よくある質問(FAQ)

Q. 部下育成をあきらめるのは、上司失格ですか?
いいえ。あきらめたくなるほど向き合った証拠です。ただ、「そのひとを見限る」ことと「期待を手放す」ことは別物です。この記事では後者、つまり信じたまま期待だけを手放して、関わり直すことをおすすめしています。

Q. 何年待てば「育たない」と判断していいですか?
「何年」という一律の答えはないと思うのです。目安は期間よりも、関わり方を変えてみたかどうか。期待の棚卸し、観察への回帰、任せる単位の縮小。これらを試す前に判断してしまうのは、少しもったいないです。

Q. 「見込みのある部下だけ育てるべき」という意見は正しいですか?
時間配分の考え方としては一理あります。ただ、選別は相手に伝わり、選ばれなかった部下はさらに育たなくなります。選別を決める前に、「期待を手放して、信じる」という関わり直しを試す価値はあると考えています。

Q. どうしても合わない部下には、どうすればいいですか?
相性の問題は、実際にあります。無理にひとりで抱えず、配置転換や役割変更、育成の分担など、環境側の調整も検討してください。それは逃げではなく、本人にとっても救いになることがあります。

 

まとめ|信じるけど、期待しない

最後に、この記事の要点を3つだけ。

  1. あきらめたくなるのは、真剣に向き合ってきた証拠(そして、あなただけのせいでもない)
  2. 手放していいのは部下ではなく「期待」のほう(信じるけど、期待しない)
  3. 3つで関わり直す(期待の棚卸し/観察に戻る/小さく任せる)

化粧品も、薬も、ひとの成長も、信じないと効果はでない。

そう思って、今日もボクは、期待せずに、信じてみることにしたのでした。

お読みいただきありがとうございます。


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🖊️ 著者プロフィール


野見山 征也|のみやま まさや
リーダーシップ・部下育成・組織づくりについて、noteでも発信しています。
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